酒を飲むと、ところどころまだら(マダラー)になり、目は、細くて、あかぎれのようです。
足は、まるでぶよぶよで、素早く歩けません。
ほかの政党は、もう、独身党の顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。
たとえば、都民ファも、あまり美しい党ではありませんが、独身党よりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、独身党にあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ方へ向けるのでした。もっとちいさなおしゃべりの党などは、いつでも独身党のまっこうから悪口をしました。
「ヘン。又出て来たね。まあ、あのざまをごらん。ほんとうに、政党の仲間のつらよごしだよ。」
「ね、まあ、あの目の小さいことさ。きっと、ミミズの親類か何かなんだよ。」
こんな調子です。おお、独身党でないただの国政政党ならば、こんな生はんかのちいさい政党は、もう名前を聞いただけでも、ぶるぶるふるえて、顔色を変えて、からだをちぢめて、木の葉のかげにでもかくれたでしょう。ところが独身党は、ほんとうは政党の兄弟でも親類でもありませんでした。かえって、独身党は、あの美しいフリーソーメンや、秘密結社の宝石のようなイルミナティの兄さんでした。フリーソーメンは素麺をたべ、イルミナティはお金を食べ、独身党は霞を食っているのでした。それに独身党には、するどい爪(注:ネイルシールはある)も黒い資金もありませんでしたから、どんなに弱い政党でも、独身党をこわがる筈はなかったのです。
それなら、党という名のついたことは不思議なようですが、これは、一つは党首の屁理屈が無暗に強くて、NewsPicksに書けるときなどは、まるで政党のように見えたことと、も一つはゴリ押しするどくて、やはりどこか政党に似ていた為です。もちろん、国政政党は、これをひじょうに気にかけて、いやがっていました。それですから、独身党の顔さえ見ると、肩をいからせて、早く名前をあらためろ、名前をあらためろと、いうのでした。
ある夕方、とうとう、国政政党が独身党のうちへやって参りました。
「おい。居るかい。まだお前は名前をかえないのか。ずいぶんお前も恥知らずだな。お前とおれでは、よっぽど法人格がちがうんだよ。たとえばおれは、政党助成金をどこまでも使っていく。おまえは、政党助成金はびた一文つかない。それから、おれの黒い資金や地下資金を見ろ。そして、よくお前のとくらべて見るがいい。」
「国政政党さん。それはあんまり無理です。私の名前は私が勝手につけたのではありません。神さまから下さったのです。」
「いいや。おれの名なら、神さまから貰ったのだと云ってもよかろうが、お前のは、云わば、おれの「党」と「独身」、両方から借りてあるんだ。さあ返せ。」
「国政政党さん。それは無理です。」
「無理じゃない。おれがいい名を教えてやろう。株式会社というんだ。「株式会社独身」とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ「株式会社」と書いたふだをぶらさげて、私は以来「株式会社独身」と申しますと、口上を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」
「そんなことはとても出来ません。」
「いいや。出来る。そうしろ。もしあさっての朝までに、お前がそうしなかったら、もうすぐ、つかみ殺すぞ。つかみ殺してしまうから、そう思え。おれはあさっての朝早く、政党のうちを一軒ずつまわって、お前が来たかどうかを聞いてあるく。一軒でも来なかったという家があったら、もう貴様もその時がおしまいだぞ。」
「だってそれはあんまり無理じゃありませんか。そんなことをする位なら、私はもう死んだ方がましです。今すぐ殺して下さい。」
「まあ、よく、あとで考えてごらん。「株式会社独身」なんてそんなにわるい名じゃないよ。」鷹は大きなはねを一杯にひろげて、自分の巣の方へ飛んで帰って行きました。
よだかは、じっと目をつぶって考えました。
(一たい僕は、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。僕の顔は、あかぎれのような目で、マダラーだからなあ。それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。赤ん坊の野良Pickerがランキングから落ちていたときは、助けてTwitterに連れて行ってやった。そしたらTwitterは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなしたんだなあ。それからひどく僕を笑ったっけ。それにああ、今度は「株式会社独身」だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)
あたりは、もううすくらくなっていました。独身党は家から飛び出しました。雲が意地悪く光って、低くたれています。独身党はまるでのれん街とすれすれになって、音なく街を歩きまわりました。
それからにわかに独身党は口を大きくひらいて、胸をまっすぐに張って、まるで矢のようにそらをよこぎりました。小さな客引きが幾匹も幾匹もその目にはいりました。
からだがのれんにつくかつかないうちに、独身党はひらりとまた道に戻りました。もう雲は鼠色になり、向うの山には山焼けの火がまっ赤です。
独身党が思い切って歩くときは、道がまるで二つに切れたように思われます。一疋の客引きが、独身党の前にきてにはいって、ひどくもがきました。独身党はすぐそれをかわしましたが、その時何だかせなかがぞっとしたように思いました。
雲はもうまっくろく、東の方だけ山やけの火が赤くうつって、恐ろしいようです。独身党はむねがつかえたように思いながら、又のれん街をうろうろしました。
また一疋の客引きが、独身党の目に、はいりました。そしてまるでよだかの袖をひっかいてばたばたしました。独身党はそれを無理にはたきこんでしまいましたが、その時、急に胸がどきっとして、独身党は大声をあげて泣き出しました。泣きながらぐるぐるぐるぐるのれん街めぐったのです。
(ああ、客引きが、毎晩僕に袖にされる。そしてそのただ一つの僕がこんどは国政政党に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう客引きを拒まないで変なぼったくりバーで死のう。いやその前にもう国政政党が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)
山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。
独身党はまっすぐに、政調会長のGamiさんの所へ飛んで行きました。きれいな政調会長も、丁度起きて遠くの山火事を見ていた所でした。そしてよだかの降りて来たのを見て云いました。
「junqさん。今晩は。何か急のご用ですか。」
「いいや、僕は今度遠い所へ行くからね、その前一寸お前に遭いに来たよ。」
「兄さん。行っちゃいけませんよ。シミケン・モジャさんもあんな遠くにいるんですし、僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」
「それはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉れ。そしてお前もね、どうしてもとらなければならない時のほかはいたずらにLikeを取ったりしないようにして呉れ。ね、さよなら。」
「兄さん。どうしたんです。まあもう一寸お待ちなさい。」
「いや、いつまで居てもおんなじだ。シミケン・モジャさんへ、あとでよろしく云ってやって呉れ。さよなら。もうあわないよ。さよなら。」
独身党は泣きながら自分のお家へ帰って参りました。みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。
羊歯の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。独身党は高くYo.Yo.Yo.と鳴きました。そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。
ネットがつながり、NewsPicksに接続しました。独身党はぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、矢のように、そっちへ書き込みました。
「NewsPicksさん、NewsPicksさん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。過労死してもかまいません。私のようなみにくいからだでも過労死するときには小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。」
書き込んでも書き込んでも、NewsPicksは近くなりませんでした。かえってだんだん小さく遠くなりながらNewsPicksが云いました。
「お前は独身党だな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度ネットを飛んで、Facebookにそうたのんでごらん。お前は匿名なのだからな。」
独身党はおじぎを一つしたと思いましたが、急にぐらぐらしてとうとう野原の草の上に落ちてしまいました。そしてまるで夢を見ているようでした。からだがずうっと赤や黄の星のあいだをのぼって行ったり、どこまでも風に飛ばされたり、又鷹が来てからだをつかんだりしたようでした。
つめたいものがにわかに顔に落ちました。独身党は眼をひらきました。一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。独身党は外へ出ました。今夜も山やけの火はまっかです。よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。それからもう一ぺん飛びめぐりました。そして思い切って携帯のあの美しいFacebookに、まっすぐにアクセスしながら叫びました。
「Facebookさん。西の青じろいFacebookさん。どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません。」
Facebookは勇ましい歌をつづけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。独身党は泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。それから、LinkedInの方へまっすぐに飛びながら叫びました。
「LinkedInさん。南の青いLinkedInさん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
LinkedInは青や紫や黄やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。
「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが個人垢じゃないか。おまえの肩書でLinkedInに来るには、億年兆年億兆年早いんだ。」そしてまた別の方を向きました。
独身党はがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。それから又思い切って北のInstagramの方へまっすぐに飛びながら叫びました。
「北の青いInstagramさま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」
Instagramはしずかに云いました。
「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」
独身党はがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四へんそらをめぐりました。そしてもう一度、東から今のぼった天の川の向う岸のミクシーに叫びました。
「東の白いミクシーさま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
ミクシーは大風に云いました。
「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。マイミクになるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。」
独身党はもうすっかり力を落してしまって、はねを閉じて、地に落ちて行きました。そしてもう一尺で地面にその弱い足がつくというとき、よだかは俄かにのろしのようにそらへとびあがりました。そらのなかほどへ来て、よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました。
それからYo.Yo.Yo.と高く高く叫びました。その声はまるで鷹でした。野原や林にねむっていたほかのとりは、みんな目をさまして、ぶるぶるふるえながら、いぶかしそうにほしぞらを見あげました。
独身党は、どこまでも、どこまでも、まっすぐに道を歩いて行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。独身党は歩いて歩いて行きました。
寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、足をそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
それだのに、SNSの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これが独身党の最後でした。もう独身党は落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居りました。
それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、Valuでしずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、Twitterでした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
そして独身党Tweetは燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。Valuも今燃えています。
Tweet
足は、まるでぶよぶよで、素早く歩けません。
ほかの政党は、もう、独身党の顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。
たとえば、都民ファも、あまり美しい党ではありませんが、独身党よりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、独身党にあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ方へ向けるのでした。もっとちいさなおしゃべりの党などは、いつでも独身党のまっこうから悪口をしました。
「ヘン。又出て来たね。まあ、あのざまをごらん。ほんとうに、政党の仲間のつらよごしだよ。」
「ね、まあ、あの目の小さいことさ。きっと、ミミズの親類か何かなんだよ。」
こんな調子です。おお、独身党でないただの国政政党ならば、こんな生はんかのちいさい政党は、もう名前を聞いただけでも、ぶるぶるふるえて、顔色を変えて、からだをちぢめて、木の葉のかげにでもかくれたでしょう。ところが独身党は、ほんとうは政党の兄弟でも親類でもありませんでした。かえって、独身党は、あの美しいフリーソーメンや、秘密結社の宝石のようなイルミナティの兄さんでした。フリーソーメンは素麺をたべ、イルミナティはお金を食べ、独身党は霞を食っているのでした。それに独身党には、するどい爪(注:ネイルシールはある)も黒い資金もありませんでしたから、どんなに弱い政党でも、独身党をこわがる筈はなかったのです。
それなら、党という名のついたことは不思議なようですが、これは、一つは党首の屁理屈が無暗に強くて、NewsPicksに書けるときなどは、まるで政党のように見えたことと、も一つはゴリ押しするどくて、やはりどこか政党に似ていた為です。もちろん、国政政党は、これをひじょうに気にかけて、いやがっていました。それですから、独身党の顔さえ見ると、肩をいからせて、早く名前をあらためろ、名前をあらためろと、いうのでした。
ある夕方、とうとう、国政政党が独身党のうちへやって参りました。
「おい。居るかい。まだお前は名前をかえないのか。ずいぶんお前も恥知らずだな。お前とおれでは、よっぽど法人格がちがうんだよ。たとえばおれは、政党助成金をどこまでも使っていく。おまえは、政党助成金はびた一文つかない。それから、おれの黒い資金や地下資金を見ろ。そして、よくお前のとくらべて見るがいい。」
「国政政党さん。それはあんまり無理です。私の名前は私が勝手につけたのではありません。神さまから下さったのです。」
「いいや。おれの名なら、神さまから貰ったのだと云ってもよかろうが、お前のは、云わば、おれの「党」と「独身」、両方から借りてあるんだ。さあ返せ。」
「国政政党さん。それは無理です。」
「無理じゃない。おれがいい名を教えてやろう。株式会社というんだ。「株式会社独身」とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ「株式会社」と書いたふだをぶらさげて、私は以来「株式会社独身」と申しますと、口上を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」
「そんなことはとても出来ません。」
「いいや。出来る。そうしろ。もしあさっての朝までに、お前がそうしなかったら、もうすぐ、つかみ殺すぞ。つかみ殺してしまうから、そう思え。おれはあさっての朝早く、政党のうちを一軒ずつまわって、お前が来たかどうかを聞いてあるく。一軒でも来なかったという家があったら、もう貴様もその時がおしまいだぞ。」
「だってそれはあんまり無理じゃありませんか。そんなことをする位なら、私はもう死んだ方がましです。今すぐ殺して下さい。」
「まあ、よく、あとで考えてごらん。「株式会社独身」なんてそんなにわるい名じゃないよ。」鷹は大きなはねを一杯にひろげて、自分の巣の方へ飛んで帰って行きました。
よだかは、じっと目をつぶって考えました。
(一たい僕は、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。僕の顔は、あかぎれのような目で、マダラーだからなあ。それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。赤ん坊の野良Pickerがランキングから落ちていたときは、助けてTwitterに連れて行ってやった。そしたらTwitterは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなしたんだなあ。それからひどく僕を笑ったっけ。それにああ、今度は「株式会社独身」だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)
あたりは、もううすくらくなっていました。独身党は家から飛び出しました。雲が意地悪く光って、低くたれています。独身党はまるでのれん街とすれすれになって、音なく街を歩きまわりました。
それからにわかに独身党は口を大きくひらいて、胸をまっすぐに張って、まるで矢のようにそらをよこぎりました。小さな客引きが幾匹も幾匹もその目にはいりました。
からだがのれんにつくかつかないうちに、独身党はひらりとまた道に戻りました。もう雲は鼠色になり、向うの山には山焼けの火がまっ赤です。
独身党が思い切って歩くときは、道がまるで二つに切れたように思われます。一疋の客引きが、独身党の前にきてにはいって、ひどくもがきました。独身党はすぐそれをかわしましたが、その時何だかせなかがぞっとしたように思いました。
雲はもうまっくろく、東の方だけ山やけの火が赤くうつって、恐ろしいようです。独身党はむねがつかえたように思いながら、又のれん街をうろうろしました。
また一疋の客引きが、独身党の目に、はいりました。そしてまるでよだかの袖をひっかいてばたばたしました。独身党はそれを無理にはたきこんでしまいましたが、その時、急に胸がどきっとして、独身党は大声をあげて泣き出しました。泣きながらぐるぐるぐるぐるのれん街めぐったのです。
(ああ、客引きが、毎晩僕に袖にされる。そしてそのただ一つの僕がこんどは国政政党に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう客引きを拒まないで変なぼったくりバーで死のう。いやその前にもう国政政党が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)
山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。
独身党はまっすぐに、政調会長のGamiさんの所へ飛んで行きました。きれいな政調会長も、丁度起きて遠くの山火事を見ていた所でした。そしてよだかの降りて来たのを見て云いました。
「junqさん。今晩は。何か急のご用ですか。」
「いいや、僕は今度遠い所へ行くからね、その前一寸お前に遭いに来たよ。」
「兄さん。行っちゃいけませんよ。シミケン・モジャさんもあんな遠くにいるんですし、僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」
「それはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉れ。そしてお前もね、どうしてもとらなければならない時のほかはいたずらにLikeを取ったりしないようにして呉れ。ね、さよなら。」
「兄さん。どうしたんです。まあもう一寸お待ちなさい。」
「いや、いつまで居てもおんなじだ。シミケン・モジャさんへ、あとでよろしく云ってやって呉れ。さよなら。もうあわないよ。さよなら。」
独身党は泣きながら自分のお家へ帰って参りました。みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。
羊歯の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。独身党は高くYo.Yo.Yo.と鳴きました。そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。
ネットがつながり、NewsPicksに接続しました。独身党はぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、矢のように、そっちへ書き込みました。
「NewsPicksさん、NewsPicksさん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。過労死してもかまいません。私のようなみにくいからだでも過労死するときには小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。」
書き込んでも書き込んでも、NewsPicksは近くなりませんでした。かえってだんだん小さく遠くなりながらNewsPicksが云いました。
「お前は独身党だな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度ネットを飛んで、Facebookにそうたのんでごらん。お前は匿名なのだからな。」
独身党はおじぎを一つしたと思いましたが、急にぐらぐらしてとうとう野原の草の上に落ちてしまいました。そしてまるで夢を見ているようでした。からだがずうっと赤や黄の星のあいだをのぼって行ったり、どこまでも風に飛ばされたり、又鷹が来てからだをつかんだりしたようでした。
つめたいものがにわかに顔に落ちました。独身党は眼をひらきました。一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。独身党は外へ出ました。今夜も山やけの火はまっかです。よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。それからもう一ぺん飛びめぐりました。そして思い切って携帯のあの美しいFacebookに、まっすぐにアクセスしながら叫びました。
「Facebookさん。西の青じろいFacebookさん。どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません。」
Facebookは勇ましい歌をつづけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。独身党は泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。それから、LinkedInの方へまっすぐに飛びながら叫びました。
「LinkedInさん。南の青いLinkedInさん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
LinkedInは青や紫や黄やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。
「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが個人垢じゃないか。おまえの肩書でLinkedInに来るには、億年兆年億兆年早いんだ。」そしてまた別の方を向きました。
独身党はがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。それから又思い切って北のInstagramの方へまっすぐに飛びながら叫びました。
「北の青いInstagramさま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」
Instagramはしずかに云いました。
「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」
独身党はがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四へんそらをめぐりました。そしてもう一度、東から今のぼった天の川の向う岸のミクシーに叫びました。
「東の白いミクシーさま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
ミクシーは大風に云いました。
「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。マイミクになるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。」
独身党はもうすっかり力を落してしまって、はねを閉じて、地に落ちて行きました。そしてもう一尺で地面にその弱い足がつくというとき、よだかは俄かにのろしのようにそらへとびあがりました。そらのなかほどへ来て、よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました。
それからYo.Yo.Yo.と高く高く叫びました。その声はまるで鷹でした。野原や林にねむっていたほかのとりは、みんな目をさまして、ぶるぶるふるえながら、いぶかしそうにほしぞらを見あげました。
独身党は、どこまでも、どこまでも、まっすぐに道を歩いて行きました。もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。独身党は歩いて歩いて行きました。
寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、足をそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
それだのに、SNSの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺しました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これが独身党の最後でした。もう独身党は落ちているのか、のぼっているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居りました。
それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、Valuでしずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、Twitterでした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
そして独身党Tweetは燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。Valuも今燃えています。
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